原油価格が再び動き出した —運送業・自動車部品メーカーの経営者に、今すぐ伝えたいこと—
「またか」と思った方もいるかもしれません。
でも今回はちょっと違う、と私は見ています。
2026年2月下旬、中東情勢が一気に動き、原油価格が歴史的な急騰を記録しました。ガソリン価格はすでに3週連続で値上がり。そして、この影響が本当に中小企業の現場に届くのはこれからです。今回は、運送業・自動車部品メーカーを中心に、「これは自分事として受け止めてほしい」という思いで書きました。
1.まず何が起きたのかを整理する
2026年2月28日、米軍・イスラエル軍がイランへの軍事攻撃を開始しました。この一報が届いた瞬間、原油市場は即座に反応しました。WTI原油価格は一時バレルあたり約120ドルまで跳ね上がり、1週間の上昇率は約35%に達しました。これは1983年の先物市場開設以来、最大の週次上昇幅です。2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来、初めて1バレル100ドルを超えた瞬間でもありました。
なぜこれほどまでに市場が反応したのか。理由は「場所」にあります。ホルムズ海峡——ここは世界の海上原油輸送量の約2割が通過する、いわばエネルギーの咽喉部です。イランはこの海峡の北側に位置しており、紛争が激化すれば航行が制限されるのは火を見るより明らかでした。市場はその最悪シナリオを一気に織り込んだわけです。
G7の介入で一旦は落ち着いたが……
その後、G7財務大臣が戦略備蓄の放出を表明し、トランプ大統領も「戦争は終わりに近い」との発言をするなど、市場沈静化に動きました。
米海軍がホルムズ海峡を通過するタンカーを護衛する計画も公表され、3月10日現在は90ドル台まで価格が戻っています。
ただ、私はこの「落ち着き」を額面通りには受け取っていません。軍事情勢は依然として流動的で、和平交渉が決裂すれば再び急騰するリスクは十分にあります。「一時的に下がった今こそ、対策を打つタイミング」だと私は強く思っています。
日本への波及——円安との「最悪の組み合わせ」
日本にとって原油高が特に痛いのは、エネルギーをほぼ全量輸入に頼っているからです。そこに円安が重なると、価格上昇がさらに増幅されます。
2026年3月1日週時点のドル円レートは155.62円。前年比でおよそ6円の円安水準です。
原油が上がり、かつ円も弱い——この二重苦は、日本の中小企業にとって本当に厳しい局面だと感じています。株価の下落、債券売りも進んでおり、景気全般への下押し圧力もじわじわ高まっていると私は見ています。
2.ガソリン価格——「値上がり前夜」の今
資源エネルギー庁が3月4日に発表したガソリン小売価格(全国平均、3月2日時点)は1リットル158.5円。3週連続の上昇で、約3カ月ぶりの高値です。
ここで私が強調したいのは、この数字は2月28日の攻撃が起きる前後のデータが中心だということです。原油の急騰がガソリン価格に反映されるまでには、通常2〜4週間のタイムラグがあります。
つまり、本当の値上がりはこれからやってくる
——今の158.5円は、嵐の前の静けさのようなものだと私は見ています。
⚠️ 私の試算では:原油が90〜100ドル台で推移し続けた場合、国内ガソリン価格は今後数週間で170〜180円台に乗ってくる可能性が高いと考えています。最悪のシナリオ(紛争拡大・ホルムズ封鎖)では200円を超えるラインも現実的です。
軽油の暫定税率廃止——4月に期待はできるが……
運送業の方に朗報があるとすれば、軽油の暫定税率(17.1円/L)が2026年4月1日に廃止される予定だということです。ガソリン税の暫定税率はすでに2025年末に廃止されており、軽油もこれに続く形です。
ただ、正直に言えば、今回の原油高騰がこの恩恵を帳消しにしてしまう可能性が十分あります。
17円の税制優遇が、30〜40円規模の値上がりに飲み込まれてしまっては意味がありません。「4月になれば楽になる」という期待は持ちつつも、過信は禁物だと考えています。
3.運送業者の現場——私が心配していること
ガソリンが10円上がっても、一般の家庭ではせいぜい月に400〜500円の出費増です。
ところが運送業は話が全く違います。
運送業にとって燃料費は、人件費に次ぐ最大のコスト項目です。しかも大型トラックの燃費は劣悪で、シングルデフトレーラーなどはリッター2キロを切ることもあります。
1台のトラックが月に4,000〜5,000リットルの軽油を消費するケースも珍しくなく、軽油価格が1円上がると、物流業界全体への年間負担増は150億円以上とも言われています。
私が相談を受けた運送業者の中には、燃料費の高騰だけで月間利益が100万円以上消えてしまったケースもあります。年換算すれば1,200万円。これは小さな運送会社にとって、事業の存続を左右しかねない金額です。
「値上げしたくてもできない」という構造的苦しさ
私が支援してきた運送業者に共通しているのは、「燃料が上がっても運賃を上げられない」という嘆きです。荷主に値上げを申し入れれば、「他の業者に頼む」と言われる。
かといって現状維持では赤字が膨らむ一方——この板挟みが、長年この業界を苦しめてきた構造問題です。
国土交通省は燃料サーチャージのガイドラインを整備し、適正な価格転嫁を推奨しています。でも現場では、荷主との力関係がある限り、交渉は簡単ではありません。今後のガソリン・軽油の値動きによっては、この問題が一気に表面化してくると私は懸念しています。
2024年問題との「複合苦」
さらに追い打ちをかけているのが、2024年4月から適用されたドライバーの労働時間規制(時間外労働の年960時間上限)です。
これによって輸送能力は制約され、人件費も増加傾向にあります。2023年の運輸業の倒産件数は416件(前年比28.4%増)で、過去5年間で最多を記録しています。
燃料費高騰・人件費増・規制強化の三重苦に加え、今回の原油急騰が重なれば、資本が薄い中小運送業者には致命的になりかねない、というのが私の率直な見立てです。
🚨 今すぐ確認してほしいこと:もし「燃料費が上がっても利益が確保できているか」という試算を最近していないなら、今すぐやってください。頭の中の感覚と、実際の数字は大抵ずれています。
4.自動車部品メーカーへの波及——想像以上に広い影響範囲
自動車部品メーカーの方と話すと、「ガソリンが上がっても直接の関係は薄い」とおっしゃる方が多いのですが、私はそうは思いません。影響のルートは少なくとも四つあります。
一つ目は工場の電力・ガス代。原油高はエネルギー価格全般を押し上げます。
二つ目は原材料コスト。プラスチック・樹脂など石油化学品を使う部品は原料コストが直撃します。
三つ目は物流費。部品を運ぶトラックの運賃が上がれば、仕入れも納品もコストが乗ってきます。
四つ目は為替。円安と原油高が同時進行すれば、海外からの調達コストも膨らみます。
私が特に注目しているのは三つ目の物流費です。運送業者の燃料コスト増は、荷主である部品メーカーへの運賃値上げという形で跳ね返ってきます。「運賃を上げてほしい」という交渉が来たとき、どう応じるかを今から考えておいてほしいと思っています。
完成車メーカーへの転嫁交渉——難しいが避けられない
コストが上がった分を完成車メーカーや一次サプライヤーに転嫁できるかどうか、これが中小部品メーカーの生死を分けます。「長年の付き合いだから値上げは言いにくい」という声はよく聞きますが、今は国としても「価格転嫁の交渉をしやすくする」方向で制度整備が進んでいます。根拠となるデータを揃えて、きちんと交渉テーブルに乗せることが重要です。
EVシフトという中長期リスクとの二重課題
忘れてはいけないのは、原油高への対応はあくまで「短期の問題」だということです。中長期では、電動化(EVシフト)による部品需要の構造変化という、もっと大きな波が来ています。内燃機関向けの部品に特化している会社は、短期の燃料高を乗り越えた先に、さらに大きな課題が待っています。今回の危機を、自社の事業構造を見直すきっかけにしてほしい、というのが私の率直な思いです。
5.今後の見通し——私はこう読んでいる
正直に言うと、今の中東情勢を精確に予測できる人間はいません。ただ、過去の事例や現状を踏まえて、私なりに三つのシナリオで考えています。
私が現時点でもっとも可能性が高いと見ているのは「基本シナリオ」です。G7が備蓄放出で急騰を抑え、散発的な交渉が続く——2022年のロシア・ウクライナ情勢に似た展開になるのではないかと思っています。つまり「すぐには終わらないが、極端な高騰も抑えられる」という、じわじわと体力を削られるような状況です。これが最も「対策を怠りやすい」シナリオでもあるので、注意が必要です。
また、政府の動向も重要です。2025年6月の前回イラン攻撃時には、日本政府は急きょガソリン補助金を拡充しました。今回も価格が急騰すれば何らかの手が打たれる可能性はありますが、財政事情を考えると無制限には続けられません。公的支援を待つだけではなく、自社で対策を講じることが先決だと私は考えています。
6.「今日から動ける」具体的な対策
① 燃料サーチャージを「今すぐ」荷主と話し合う
燃料サーチャージは、燃料価格の変動を運賃に連動させる仕組みです。国土交通省のガイドラインを使えば、荷主との交渉に客観的な根拠を持たせることができます。「言いにくい」気持ちはわかりますが、黙って赤字を垂れ流すより、正当な交渉をする方が双方のためになります。今がそのタイミングだと私は思います。
② 数字で現状を「見える化」する
燃料費が月に何万円増えたか、それが営業利益に与える影響はいくらか——これを頭の中ではなく、数字で出してみてください。「なんとなく厳しい」を「これだけ損している」に変えることで、交渉力も増しますし、経営判断の質も変わります。
③ 車両の燃費管理を徹底する
エコドライブ教育や、タイヤ空気圧管理などの地道な取り組みで燃費を数%改善できます。1台あたり5%の改善でも、車両台数が多ければ年間で数百万円のコスト削減になります。中長期では低燃費・EV・HV車両への移行も、補助金を活用しながら検討に値します。
自動車部品メーカーの方へ
① 自社の「原油感応度」を測る
原油価格が10ドル上がったとき、自社のコストはどれくらい増えるか——このシミュレーションをやったことがある会社は意外に少ないです。エネルギー費・原材料費・物流費それぞれへの影響を定量的に把握することが、最初のステップです。
② 取引先への価格転嫁交渉を準備する
政府は「価格転嫁しやすい環境」を整えようとしており、パートナーシップ構築宣言などの枠組みも整備されています。感情論ではなく、コストの根拠データを揃えて交渉する準備を今から始めてください。
③ 省エネ投資の補助金をチェックする
省エネ補助金やものづくり補助金など、エネルギーコスト削減に使える補助制度があります。こうした機会を使って設備改善を進めることは、今後のリスクヘッジにもなります。
共通して今すぐやるべきこと:資金繰りの「安全網」確認
燃料費の急騰は、手元キャッシュをじわじわ削っていきます。特に月次の支払いサイクルの関係で、気づいたときには手元資金が思った以上に減っていた——というケースを私は何度も見てきました。日本政策金融公庫や信用保証協会のセーフティネット保証は、経営悪化前に申請しておくことが重要です。また、各都道府県でも燃料費高騰への緊急支援金を設けているケースがあります。「使える制度があるかどうか」だけでも確認しておいてください。
7.最後に
私がよく言うのですが、「経営の問題は、早く気づいた人が助かる」のです。今の段階でまだ深刻な状況ではないとしても、数カ月後に「あのとき動いておけばよかった」と思わないために、今動いてほしいと思っています。
数字を見るのが不安な方、交渉が苦手な方、何から手をつければいいかわからない方——そういう方のそばに立って、一緒に考えるのが中小企業診断士の仕事だと私は思っています。一人で抱え込まず、ぜひ相談してください。