補助金で夢を掴もうとしたら、業者に掴まれた「弊社の顧問先、しずかの話」
プロローグ:しずか、32歳、エステサロンオーナー
※この話は、実際にあった顧問先での出来事をフィクションを交えて記載しています
大阪の住宅街の一角に、小さなエステサロンがある。
店名は「Salon de Shizuka(仮)」。こぢんまりとしているが、アロマの香りが漂い、BGMはさりげなくジャズ。壁には観葉植物。入った瞬間、日常を忘れられる——そんな空間を、顧問先であるしずかは5年かけて作り上げてきた。
オーナーのしずかは32歳。おっとりした話し方と、昭和の少女漫画から抜け出てきたような清楚な雰囲気で、お客さんからも「癒される」と大人気だ。黒髪をさらっと肩で切り揃え、いつも少し首を傾けながら微笑む。怒った顔を見たことがないと常連客は口を揃える。
そんなしずかには、ひとつ悩みがあった。
「ホームページ、ちゃんとしたの作りたいなあ」
集客はもっぱら口コミとInstagram。それなりに回っているが、検索で見つけてもらえない。友人に「Googleで調べたら出てこなかったよ」と言われてから、ずっと気になっていた。
でも、ホームページ制作って高いんでしょ? 100万円とか普通にするって聞いたし……。
そんなある日。一本の電話がかかってきた。
第一章:救世主(のような男)の登場
「突然のご連絡失礼します。私、〇〇ソリューションズの田中と申します。エステサロン様向けに、補助金を活用してホームページを格安で制作するご提案をしておりまして——」
しずかは最初、怪しいと思った。思ったのだが。
「IT導入補助金というものをご存知ですか?国が中小企業のDX推進を支援するための補助金で、うまく使えばホームページ制作費の最大75万円が補助されるんです」
「75万円……!?」
「はい。ですので実質、お客様のご負担は5万円になります」
しずかの目が少し大きくなった。昭和の少女漫画なら、ここで瞳にキラキラのスクリーントーンが入るシーンだ。
「5万円で、ちゃんとしたホームページが作れるんですか?」
「もちろんです。実績もございます。よろしければ一度、詳しくご説明に伺いますね」
こうして田中さん(仮名)は、翌週にしずかのサロンへやってきた。
第二章:なんか話が進んでいく
田中さんは爽やかだった。スーツはパリッとしていて、資料もきれいで、口調も丁寧だ。持ってきたノートパソコンには、過去に制作したというエステサロンのホームページが並んでいた。
「こういう感じで作れます」
「わあ、きれいですね」
「ありがとうございます。では早速、手続きに入りましょうか」
「あ、はい」
気づいたらしずかは、言われるがままに書類を受け取っていた。
契約書。発注書。そして——
「マイナンバーカードのコピーをいただけますか」
「え、マイナンバー?」
「はい、補助金申請に必要なんです」
(そういうもんか)とりあえずコピーを渡した。
それから——
「こちらの請求書と振込依頼書にもご確認をお願いします」
しずかは書類に目を落とした。
「……あの、これ」
「はい?」
「POSレジって書いてあるんですけど」
「あ、はい」
「私、ホームページを作りたいんですよね?」
「おっしゃる通りです」
「なんでPOSレジ?」
田中さんは少し間を置いてから、にっこり笑った。
「形式上、そうしないといけないんです。実際にはホームページを作りますので、ご安心ください」
しずかは首を傾けた。昭和の少女漫画なら、ここに「……?」という吹き出しが3つくらい浮かぶシーンだ。
「……そういうもんですか」
「そういうもんです」
なんかよく分からないけど、まあプロが言うなら大丈夫か。
これが、最初の間違いだった。
第三章:ホームページ、完成する
それから数週間後。
ホームページは本当に完成した。
URLが届き、しずかはスマホで開いてみた。
「お、ちゃんとしてる……!」
トップページにはサロンの写真。メニュー一覧。アクセスマップ。予約ボタン。
まあ、よく見ると画像がちょっとぼんやりしていて、フォントの選び方がやや素人くさいというか……でもまあ、形にはなっている。これで5万円なら十分すぎるくらいじゃないか。
しずかは少し胸を撫で下ろした。
そして、口座を確認すると——70万円が振り込まれていた。
「え、入金?」
困惑しながらも、まあ田中さんが言ってたやつかな、と思った。補助金が入ったのかな、と。
このとき、もう少し深く考えるべきだった。
でも、しずかは優しくておっとりしている。昭和の少女漫画のヒロインというのは、基本的に疑うことが得意ではない。
第四章:ニュースの中の見知らぬ会社名
それから2ヶ月後の夜。
しずかはソファでスマホをスクロールしていた。アロマを焚いて、ハーブティーを飲みながら、今日の疲れを癒していた時間。
ふと、Xから流れるニュースに目が止まった。
「IT導入補助金で不正、業者を摘発 架空のソフト導入装い補助金詐取か」
しずかは何気なくタップした。
記事を読み進めていくと——会社名が出てきた。
「……あれ」
「……あれ?」
「…………あれ!?」
それは、田中さんの会社だった。
しずかの手からスマホが落ちた。正確には、落としそうになって慌てて掴み直した。昭和の少女漫画なら、背景が真っ黒になって、白い線がバーッと入るシーンだ。
「やばいじゃん」
しずかは静かにそう呟いた。
第五章:現実と向き合う
その後は早かった。
調査が入り、しずかの取引はすべて洗い出された。補助金の不正受給に加担したとみなされ、受け取った補助金は全額返還。さらに加算金まで請求された。
そして——
「今後、IT導入補助金をはじめ、複数の補助金制度が利用停止となります」
担当者からそう告げられたとき、しずかは言葉を失った。
「でも、私は騙されただけで……」
「おっしゃる通り、被害者であることは理解しています。ただ、書類に署名・押印をされているため……」
そうだ。契約書に判子を押した。マイナンバーを渡した。請求書を受け取った。
全部、自分がやったことだ。
「知らなかった」は、法律の前では通らない。
エピローグ:しずかからのメッセージ
この話には後日談がある。
しずかは今も、あのサロンを続けている。補助金は使えなくなったが、コツコツと自己資金を積み上げて、去年ようやくホームページをリニューアルした。今度はちゃんとした制作会社に頼んで、ちゃんとした金額を払って。
彼女は今、こう言っている。
「あのとき、おかしいと思った瞬間があったんです。POSレジの請求書を見たとき。でも、聞いたら流されてしまった」
そう。気づいていたのだ。
「なんかおかしい」という感覚は、正しかった。
読んでいるあなたへ:補助金詐欺を見抜く3つのサイン
しずかの話、人ごとじゃないですよ。実際に全国で同様の被害が続出しています。
🚨 サイン①:実態と異なる名目の請求書が出てくる 「ホームページを作るのに、なぜPOSレジの請求書?」——これが最大の違和感でした。補助金の対象と実際のサービスが一致しない場合は即アウトです。
🚨 サイン②:業者側が「全部やっておきます」と言いすぎる 補助金申請は本来、事業者自身が内容を理解して行うもの。「難しいことは全部こちらでやります」という業者は、あなたを"使っている"可能性があります。
🚨 サイン③:やたらと個人情報を求めてくる マイナンバーの提供が必要なケースはありますが、なぜ必要なのか説明できない業者は危険です。
補助金は、正しく使えば本当に強力な経営の武器になります。でも、甘い話には必ず裏がある。
「安すぎる」「なんかおかしい」——その感覚を、絶対に手放さないでください。
しずかの件は、業者が悪い。ほんとに、業者もしっかりしてくれ。