「自己資金ゼロだけど、お金貸してもらえますよね?」創業相談のリアルな話

こんにちは。


当事務所では融資のサポートを行っているのですが、この仕事をしていると、創業を考えている方からの様々な融資相談を定期的にお受けします。


その中で、心が重くなる瞬間があります。

それが、「自己資金はゼロなんですけど、借りられますよね?」という一言をいただいたとき。





今回は、実際にあった(複数のケースを組み合わせた)やりとりをもとに、創業融資の"きれいごと抜き"のリアルをお伝えしたいと思います。

これから創業を考えている方にはちょっと厳しい話に聞こえるかもしれません。でも、遠回りに見えて、実はこれが一番の近道になる話です。最後まで読んでいただけると嬉しいです。


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↑創業融資=新規開業・スタートアップ支援資金とも呼ばれています



ある日の相談窓口にて

相談窓口。目の前には、やる気に満ちた表情のAさん(30代・脱サラして飲食店を開業したいという方)が座っています。


Aさん 「先生、実は来月にもお店を出したいと思っていて。物件も見てきたんです!立地もいいし、内装費と設備でだいたい500万円くらいかかりそうなんですけど、日本政策金融公庫の創業融資で借りられますよね?」


 「おお、物件まで見に行かれたんですね。行動力、素晴らしいです。ちなみに、自己資金の方はどれくらいご準備されていますか?」


Aさん 「あ……それが、正直ゼロなんです。でも公庫さんって、自己資金なくても創業融資してくれるって聞いたので大丈夫ですよね?」

ここで私は、いつも一度深呼吸をします。


夢を持って相談に来てくださった方に、水を差すような言葉を伝えなければならないのは、正直つらいものがあります。でも、ここで本当のことをお伝えしないと、後でもっと大きな傷を負うことになってしまうからです。



「自己資金ゼロ」がなぜ問題なのか──船出のイメージで考えてみる

「Aさん、少しイメージで説明させてくださいね。創業って、よく『航海に出る』ことに例えられます。」

「自己資金というのは、船に積んでおく"最初の食料と燃料"のようなものなんです。港を出て、しばらく漁が振るわなくても、この蓄えがあれば持ちこたえられる。でも、その蓄えがゼロの状態で、しかも初めての航海に出ようとしている船に、銀行や公庫が『では燃料も食料も、必要な分は全部お貸しします』と言えるでしょうか。」


Aさん 「うーん……確かに、それは怖いですね……」


 「そうなんです。自己資金がまったくないというのは、金融機関から見ると『この人は、これまで開業のためにコツコツ準備してきた形跡がない』というサインに映ってしまうんです。」

「制度上は『自己資金要件なし』とされている融資もあります。でも実際の審査では、自己資金の有無や貯め方が、事業者さんの計画性・本気度・お金の管理能力を測る、とても大事な"ものさし"として見られています。」



「自己資金の目安」を家づくりでイメージすると

Aさん 「じゃあ、どれくらい自己資金があれば安心なんですか?」





 「これも家づくりに例えるとわかりやすいかもしれません。」

「住宅ローンを組むとき、頭金なしのフルローンだと、審査が厳しくなったり金利が上がったりしますよね。それと同じで、創業融資の世界でも、必要な開業資金の3分の1程度は自己資金で用意できているのが望ましい、というのが実務上の一つの目安です。」

「500万円で開業したいなら、150〜170万円くらいは自分で準備できている状態が理想、というイメージです。もちろんこれは絶対のルールではありませんが、審査を担当する方にとって『この人はちゃんと計画的にお金を貯められる人だ』という安心材料になります。」


Aさん 「そんなに……。実は貯金があまり得意じゃなくて、正直、今まで計画的にお金を貯めたことがないんです……」


 「それを正直に話してくださって、ありがとうございます。実はここが、一番大事なポイントなんです。」



お金の話は「事業ができるかどうか」の写し鏡


「開業資金を貯める、というのは、実は"開業の予行演習"でもあるんです。」

「毎月コツコツ、決まった金額を先取りで貯金していく。これができる方は、開業後も、売上の中から仕入れ代・家賃・税金の分をきちんと分けて管理できる可能性が高い。逆に、貯金の習慣がまったくない状態で開業してしまうと、売上が入ってきた瞬間にそのまま使ってしまい、気づいたら仕入れ代が払えない、税金が払えない、という状態に陥りやすいんです。」

「自己資金は、単なる『お金の量』ではなく、『お金と付き合う力』の証明書のようなものだと思ってください。」


Aさん 「……なるほど。ゼロ円で借りようとしていた自分は、まだその証明書を持っていない状態、ということですね」


 「はい、まさにそうです。そして、それは決して悪いことではありません。今それに気づけたことが、実はすごく大きな一歩なんです。」



実務経験・管理能力も、実は"見られている"


 「もう一つ大事な話をさせてください。融資の審査では、お金だけでなく、その事業を実際にやっていける実務経験や、事業を管理していく力も見られています。」

「たとえば飲食店なら、その業界での勤務経験、仕入れや原価管理の知識、接客経験。こうしたものが積み重なっているかどうかで、審査官の見る目は大きく変わります。イメージで言うと、初めて自転車に乗る人がいきなりレースに出ようとするのと、補助輪で練習してから公道デビューする人とでは、周りの信頼度がまったく違いますよね。それと同じです。」





Aさん 「僕、実はこの業界での勤務経験がまだ半年くらいしかなくて……」


「正直に教えてくださって助かります。半年というのは、決して悪い数字ではありません。ただ、審査の場では『もう少し実務を積んでから』という判断がされやすい期間ではあります。」


それでも来てしまう、もっと厳しいご相談

ここまでは、まだ前向きに準備すれば道が開けるケースです。

ですが実際の窓口では、もっと厳しい状況の方もいらっしゃいます。

・過去に事業に失敗して自己破産の経験がある方
・いわゆる信用情報のブラックリストに載ってしまっている方(クレジットカードやローンの延滞履歴が残っている状態)
・税金の滞納が続いている方

こうした方が「創業融資を受けたい」といらっしゃることも、決して珍しくありません。


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↑こんなことを謳っているコンサルタントがいれば、怪しいと思った方が良いです

※政府系・保証協会共に、厳しい判断となります。また暴力団関係(親族含む)も同様です


 「率直にお伝えしますね。信用情報に事故情報が残っている状態や、税金の滞納がある状態では、公的な創業融資等はほぼ間違いなく難しいです。」

これは、私個人の意地悪でも、制度の理不尽さでもありません。融資というのは「将来、きちんと返済してもらえる相手かどうか」を見る仕組みです。過去の返済や納税の記録は、その一番わかりやすい判断材料になってしまうんですね。

家を貸すときに、大家さんが過去の家賃滞納履歴を気にするのと、構造はまったく同じです。

税金の滞納については、特に大事なお話があります。税金は「事業の一番の理解者であり、一番の監視者」でもあります。滞納がある状態でスタートしてしまうと、延滞税がどんどん膨らみ、事業が軌道に乗る前に資金繰りが苦しくなる、という悪循環に陥りやすいんです。



結論:今すぐは、難しいです

長々とお話ししてきましたが、結論をはっきりお伝えします。

自己資金がほぼゼロで、実務経験も浅く、ましてや過去の金融事故や税金滞納がある状態では、創業融資を受けるのは非常に難しいです。

これは、夢に水を差すための言葉ではありません。


準備が整っていない状態で無理に開業してしまうと、資金が尽きて数ヶ月でお店をたたむことになり、借金だけが残ってしまう。そういうケースを、私は今まで何度も見てきました。それだけは、絶対に避けていただきたいんです。


じゃあ、どうすればいいのか

 「Aさん、ここからが本題です。『今はだめ』は、『一生だめ』ではありません。」

私がいつもお伝えしているのは、次の3つのステップです。

  1. 自己資金を計画的に貯める:毎月の先取り貯金を始める。金額の大小より「継続できたという実績」そのものが、審査上の大きな武器になります。
  2. その業界での実務経験を積む:できれば1〜2年、実際にその仕事に携わって、原価感覚・接客・仕入れなどの"肌感覚"を身につける。
  3. お金の管理習慣をつくる:家計簿でも、簡単な収支ノートでもいい。「入ってきたお金をどう振り分けるか」を練習しておく。

Aさん 「……今すぐには無理でも、1年後、2年後を見据えて動けばいいんですね」


 「そうです。むしろ、その準備期間があるからこそ、開業したときに"生き残れるお店"になるんです。焦って船を出して沈んでしまうより、少し時間をかけてでも、ちゃんと燃料と食料を積んでから出港する方が、結局は目的地に早くたどり着けます。」








おわりに

創業のご相談を受けていて一番もどかしいのは、「情熱はあるのに、準備が追いついていない」という状態の方に出会ったときです。

でも裏を返せば、情熱さえあれば、準備は必ず追いつかせることができます。自己資金も、実務経験も、お金の管理力も、すべて「今日から始められる」ことばかりです。

もし今、自己資金がゼロの状態で創業を考えている方がいたら、まずは「いつまでに、いくら貯めるか」を一緒に考えるところから始めましょう。そのために商工会議所等の公的機関を活用することも有効です。

厳しい話でしたが、最後まで読んでくださってありがとうございました。